「借方・貸方」「仕訳」と聞くと、なんだか難しそうに感じませんか?
この文章では、会計の専門用語をできるだけ使わずに、なぜ仕訳というものが重要になったのか、そしてなぜあの独特な形式になっているのかを、順を追って説明していきます。
専門用語は最後にまとめて紹介しますので、まずは「考え方」を理解することに集中してください。
読み終わる頃には、仕訳の形式が「覚えるもの」ではなく「自然とそうなるもの」として理解できるようになるはずです。
商売の基本は単純です。
売上−費用=利益
100万円売り上げて、70万円の費用がかかったら、利益は30万円。これは誰でもわかります。
銀行の通帳を見れば、お金の動きもすぐわかります。
ある時点の残高 + 入金 - 出金 = 次の時点の残高
月初に50万円あって、30万円入金があり、20万円出金したら、月末は60万円。これも簡単ですね。
ここで少し考えてみましょう。
売上はいつ発生する?
お客さんに商品を売るとき、売上が発生するのはいつでしょうか?
費用はいつ発生する?
クレジットカードで本を買うとき、費用が発生するのはいつでしょうか?
なぜこれが問題になるのか
もし「お金が動いたときが売上・費用」というルールにすると、困ったことが起きます。
たとえば、12月に商品を届けたのに、「入金は来年1月でもいいですよ」とお願いすれば、今年の売上を来年に移せてしまいます。逆に、来年届く商品の代金を今年中に払っておけば、来年の費用を今年に移せます。
つまり、入金や出金のタイミングを調整するだけで、業績を好きなように見せかけられてしまうのです。
これはおかしいですよね。
お金の動きではなく「取引の実態」で記録する
そこで、会計ではお金の動きではなく、取引の実態に基づいて売上や費用を認識するというルールを採用しています。
お金がいつ動くかは関係ありません。
「取引の実態で記録する」という考え方はわかりました。でも、こんな疑問が浮かびませんか?
「じゃあ、現金がいくらあるかはどうやって把握するの?」
確かに、お金の動きに振り回されるのはよくありません。でも、現金がいくらあるかわからないのも困ります。
そこで、損益(売上・費用)と現金の動き、両方を同時に記録する方法があれば便利だと思いませんか?
実は、それが「仕訳」なのです。
具体的な例で考えてみましょう。
例1:クレジットカードで1万円の本を買う
本が届いたとき、何が起きているでしょうか?
項目 | 変化 |
|---|---|
預金残高 | 変わらない |
費用 | 1万円増える |
カード会社への支払義務 | 1万円増える |
カード会社が銀行口座からお金を引き落としたとき、何が起きるでしょうか?
項目 | 変化 |
|---|---|
預金残高 | 1万円減る |
カード会社への支払義務 | 1万円減る(消える) |
例2:3万円の商品を売って後日入金される
商品を届けたとき、何が起きているでしょうか?
項目 | 変化 |
|---|---|
預金残高 | 変わらない |
売上 | 3万円増える |
顧客からの回収予定 | 3万円増える |
顧客がお金を振り込んでくれたとき、何が起きるでしょうか?
項目 | 変化 |
|---|---|
預金残高 | 3万円増える |
顧客からの回収予定 | 3万円減る(消える) |
上の例を見て、何か気づきませんか?
どの取引でも、必ず2つの項目が同時に動いています。
取引 | 動き① | 動き② |
|---|---|---|
本を購入 | 費用が増える | 支払義務が増える |
カード引落 | 預金が減る | 支払義務が減る |
商品を売る | 売上が増える | 回収予定が増える |
代金入金 | 預金が増える | 回収予定が減る |
これは偶然ではありません。取引とは本質的に「何かを得て、何かを失う(または義務を負う)」ことだからです。
5月1日の終わりに、この会社の状況を確認してみましょう。
損益の面
売上 3万円 - 費用 1万円 = 利益 2万円
現金の面
入金 3万円 - 出金 1万円 = 残高増加 2万円
支払義務と回収予定は、それぞれ増えて減って、プラスマイナスゼロになっています。
つまり、2つの側面を同時に記録していけば、損益も現金も両方把握できるのです。
この「2つの動きを同時に記録する」という方法を、もっとと使いやすくしたものが「仕訳」です。
仕訳の基本ルール
左側 | 右側 |
|---|---|
=== | === |
金額の合計 | 金額の合計 |
必ず一致 | 必ず一致 |
なぜこの形式が優れているのか
たとえば、3万円の売上のうち1万円だけ現金で受け取り、残り2万円は後日入金の場合:
左側 | | 右側 | |
|---|---|---|---|
預金 | 1万円 | 売上 | 3万円 |
回収予定 | 2万円 | | |
合計 | 3万円 | 合計 | 3万円 |
左右の合計が一致するので、記入漏れや計算ミスがあればすぐにわかります。
もし仕訳の形式がなかったら?
単純にメモ書きで記録すると、こうなるかもしれません。
4/1 売上3万円あり。1万円は現金、2万円は後で入金予定。
これだと、後から集計するとき大変です。「現金がいくら増えたか」「回収予定がいくらあるか」を一つ一つ文章から読み取らなければなりません。
仕訳の形式なら、同じ種類の項目を縦に足していくだけで集計できます。
さて、仕訳では何を左に書き、何を右に書くのでしょうか?
ここでは、預金を基準にして、1つずつ具体的な取引から確認していきます。
出発点:預金が増えたら左、減ったら右
まず、預金が増えたら左側と決めます。これだけは「そういうもの」として受け入れてください。
では、預金が減ったときはどうするか?
「左側にマイナスの金額を書く」という方法もありそうですが、仕訳では右側にプラスの金額を書くことになっています。
なぜでしょうか?
たとえば、1ヶ月間に以下の取引があったとします。
4/1 預金 +10万円4/5 預金 -3万円4/10 預金 +5万円4/20 預金 -2万円月末の預金残高を知りたいとき、マイナスが混在していると、こう計算することになります。
10−3+5−2=10万円
これでも計算できますが、「入金の合計」と「出金の合計」を別々に知りたいときは、もう一度見直す必要があります。
一方、増加を左、減少を右と分けて書くと:
左側(増加) | 右側(減少) |
|---|---|
10万円 | 3万円 |
5万円 | 2万円 |
合計 15万円 | 合計 5万円 |
こうすれば、入金合計15万円、出金合計5万円、差引10万円と、すべての情報が一目でわかります。
これが「減ったら反対側に書く」理由です。
預金が増える → 左側に「預金」と書く預金が減る → 右側に「預金」と書くここから、他の項目がどちら側になるかを1つずつ確認していきましょう。
3万円の商品を売って、すぐに現金で受け取りました。
左側 | | | 右側 | |
|---|---|---|---|---|
預金 | 3万円 | | ??? | 3万円 |
預金が増えたので左側に書きました。では売上はどちら?
左右の合計は一致しなければなりません。預金が左に3万円あるので、売上は右に書くしかありません。
左側 | | | 右側 | |
|---|---|---|---|---|
預金 | 3万円 | | 売上 | 3万円 |
1万円の商品を仕入れて、現金で支払いました。
左側 | | | 右側 | |
|---|---|---|---|---|
??? | 1万円 | | 預金 | 1万円 |
預金が減ったので右側に書きました。では仕入(費用)はどちら?
左右を一致させるために、仕入は左に書くしかありません。
左側 | | | 右側 | |
|---|---|---|---|---|
仕入 | 1万円 | | 預金 | 1万円 |
3万円の商品を売りましたが、代金は来月振り込んでもらう約束です。
売上は右側でしたね。では回収予定はどちら?
左側 | 右側 |
|---|---|
??? 3万円 売上 | 3万円 |
左右を一致させるために、回収予定は左に書くしかありません。
左側 | 右側 |
|---|---|
回収予定 3万円 売上 | 3万円 |
確認:回収予定(将来もらえる権利)は左側に書く
取引③の代金3万円が、銀行口座に振り込まれました。
左側 | 右側 |
|---|---|
預金 3万円 ??? | 3万円 |
預金が増えたので左側に書きました。回収予定が減ったのでどちらに書く?
左右を一致させるために、回収予定は右に書きます。
| |
|---|---|
| |
-- | -- |
左側 | 右側 |
|---|---|
預金 3万円 | 回収予定 3万円 |
1万円の商品を仕入れましたが、代金は来月払う約束です。
費用は左側でしたね。では支払義務はどちら?
左側 | 右側 |
|---|---|
仕入 1万円 | ??? 1万円 |
左右を一致させるために、支払義務は右に書くしかありません。
左側 | 右側 |
|---|---|
仕入 1万円 | 支払義務 1万円 |
取引⑤の代金1万円を、銀行口座から振り込みました。
左側 | 右側 |
|---|---|
---- | ---- |
??? 1万円 | 預金 1万円
預金が減ったので右側に書きました。支払義務が減ったのでどちらに書く?
左右を一致させるために、支払義務は左に書きます。
左側 | 右側 |
|---|---|
支払義務 1万円 | 預金 1万円 |
確認:支払義務は、増えるときは右、減るときは左
取引⑦:銀行からお金を借りた
銀行から50万円を借りて、口座に入金されました。
何が起きた?
仕訳にすると:
左側 | 右側 |
|---|---|
預金 50万円 | ??? 50万円 |
預金が増えたので左側に書きました。借金はどちら?
左右を一致させるために、借金は右に書くしかありません。
左側 | 右側 |
|---|---|
預金 50万円 | 借金 50万円 |
確認:借金(返す義務)は右側に書く
支払義務と同じですね。「将来払う義務」「将来返す義務」は、どちらも右側です。
取引⑧:借金を返した
銀行に50万円を返済しました。
何が起きた?
※回答内容が保存され、問題作成者が閲覧できます